仕事帰りに、隣り町のスーパーに買い物に行った。
夕方6時とはいえ外はまだまだ明るい。
きょうは案外すいているのだが、広い駐車場の端っこに車を入れるのは、車(ハイエース)のガタイが大きいためである。
車を降りると、後輪の近くに何やら黒いものがある。落とし物かと思い、老眼なので近づいて確かめると、何とクワガタだった。
植え込みの方からよたよた歩いてきている。
手に捕ってみると、立派なハサミを持ったノコギリクワガタのオスである。ハサミの付け根の窪んだところに薄く土がついていて、まだ出てきて間がないと思われる。
田舎育ちだから、子供のころカブトムシやクワガタを捕りにさんざん行ったが、ノコギリクワガタは珍しく、めったにお目にかかれなかった。クワガタはたいていコクワガタと呼ばれる種類だった。
そういえば、数日前にコンビニの駐車場でもクワガタを見つけたことがあって、そっちはコクワガタのメスで、触ってももう動かなかった。
夜中に駐車場の街灯目指して飛んでくるのだろう。
さてノコギリクワガタのオスである。子供のころなら大喜びして家に持ち帰ったものだろうが、わたしもすでにいいお歳になってしまっている。またよろこんでくれる孫その他がいるわけでもなし、さてさてどうしたものか。
仕方ない、ちょっぴり心残りはあるが、安全なところに放してあげよう。
少し離れたところの樹の繁ったあたりに移動して放り投げたら、首尾よく木の葉にくっついたみたいでひと安心。
次の日。
台風が近づいているということで朝から雨が降っている。
こういう日はあんまりやる気が出ないのだが、そうも言っておれず工房で仕事を始める。
何気なく足元にある雑巾の掛かったバケツに視線を落とすと、縁に黒いものが目にとまった。
一瞬我が目を疑ったが、なんとなんと、また、クワガタ。
まさかきのうの子?
ちょっと、まさか放してあげたお礼を言いに来たなんて事はないよね、と言いつつ手に捕ると、昨日のノコギリくんよりはやや小ぶりなコクワガタのオスだった。
工房は住宅と畑に囲まれていて、森のとなり林の中という立地ではない。それなのに建物の中にクワガタがいるというのはどうしたものでしょう。
クワガタは手の平から手の甲へ、わたしの手の上を元気よく這いまわる。くすぐったいような感触。ときどき手からポトリとこぼれ落ちる。かわいい。
きょうは一日雨だから、雨のあたらない桟積みの間に放してあげると、先ほどと打って変わって身を隠すようにじっとしている。
雨が止むまでそうしていれば。
どうやら今年はクワガタの当たり年らしい。
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