梅雨のはじまる前、仕事場の入口の引き戸を開けっぱなしにしていると、ツバメが勢いよく飛びこんでくることがある。
入って来たところから出ればいいのに、ツバメは逃げ処が分からずに建物の中を飛び回り、追い出すのに苦労する。
そんなことがいつもの年なら何度かあるが、今年は一度もなかった。
雀やツバメが減ったという。そういえば、屋根上で遊ぶ雀の声も少なくなった気がする。
以前住んでいた町営住宅は、新築のくせにどちらかというと古民家風な造りで、二階の庇(ひさし)下の格子に雀が巣を作っていた。
朝は日の出とともに雀が鳴き出し、二階で寝ていたためにその声でよく目が覚めた。雨が降っていればそれほどでもなかったが、天気のいい朝は雀の声がうるさいほどだった。
その巣を狙うのもいて、ある日二階の窓を開けると、目の前を青大将が這っていてびっくりしたことがある。樋でも伝って登ってきたのだろう。ヘビ嫌いの私は手が出せず、あわてて子どもを呼びに走った。
毎年、ツバメも玄関の庇の下に巣を作った。
楽しみにしていたわけでもないが、雛がかえると無事に巣立つかどうか、やはり心配なものである。
いつも気にして見ていたのだが、留守中にカラスの襲撃にあい、巣ごと落ちて無残なことが何度かあった。カラスの貪欲さに呆れたのだった。
今住んでいる借家は庇がないので(申し訳程度にはある)、雀やツバメが巣を作ることもなくなった。
先日、友達と軽井沢の森のなかにある美術館に行った時のこと。
観終わったあとそこのカフェでコーヒーを飲んでいると、目の前のガラスに「タッ」と何かぶつかる音がした。外を見ると小鳥がコンクリの上でうずくまっている。掌の中に納まるぐらい小さくて、背中の黄色が一点鮮やかな鳥である。
カフェは外の森と大きなガラスで仕切られているだけである。眺めはとてもいいのだが鳥にはそれが見えなかったらしい。
ともかく立ちあがったので、生きてはいるらしい。でもじっとしたまま動かないでいる。
美術館の人によれば、「しょっちゅうなんです」といい、「脳しんとうを起こしているだけで、しばらくすると飛んでいきますよ」とのことだった。
気にしないでと言われてもやはり気なるもので、コーヒーを飲みながら5分、10分と見ていたが、ちっとも飛ぼうとしない。
ぶらぶらとショップの品物を物色して時間が過ぎ、さてそろそろ次へ移動しようということになった。
外に出たのでお別れにカフェの前の小鳥に近づこうとすると、人の気配を感じたのだろう、さっと森に向かって一直線に飛んだ。やっと我に返ったところなのか、それともずっと力を溜めていたのか。何ごともなかったように、あっという間に空に消えていった。
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