
ぼくの考えでは、モノ作りには二通りある。
ひとつは、考えることと作ることが同時進行して完成に至るやり方で、たとえば土をこねて器を作るようなときは、あらかじめ完成品のイメージはあったとしても、こんな大きさがいいかなとか、もう少し薄い方が使いやすいとか、考えながら手を動かして、だんだん完成に近づいていく。
わりと自由度が大きくて、途中で修正や変更がきくやり方といえる。
最終的な到達点を決めずに始めて、思いつくことを取り入れながら進めることもできる。
絵を描くとか彫刻なんかもそんな感じだと思う。
いまひとつは、周到に計画を立て、まず必要なパーツを制作し、最後にそれらを組み立てて完成するやり方。
ぼくの仕事の家具作りがそれである。
家具はいきなり作りはじめることは難しいので、まずスケッチをしてアイデアを固めることから始まる。
そしてそれを図面に起こし、必要なら原寸図を描いてチェックする。
それから制作である。
椅子の場合だったら、前脚と後ろ脚や背もたれと座面、またそれらをつなぐパーツなどを、まずひとつひとつ作る。作っていてもこの段階では、全体像はまだ見えてこない。
全部パーツが出来たところで組み立てとなるのだが、組み上がってみて初めて、ご対面となる。
「ああこんな椅子だったんだ」、と思う。
うまくいくこともあれば、イメージしていた感じと違うときもある。
それまで見えていなかったことに、そのとき初めて気付くなんてのもしばしば。
準備はいろいろするのだが、すべてのことがうまくいったかどうか、本当に確認できるのは全体の形が出来あがってからである。
イスなんかは難しいから、一回目でうまくいくことはなかなかなく、最初のは試作で終わることも多い。
家具を始めたころは、できたものが気に入らなくて、よく作り直していたっけ。
経験がないと読めないことばかりで、椅子ひとつ作るにも、ずいぶん時間がかかった。
家を建てるも家具と同じで、きっと後者である。
いやそんなことはない、大工さんや職人さんが何日もかけて現場でこつこつ作っているではないかとおっしゃるかもしれない。
でもそれは、モノが大きくてパーツの数が多いから、制作と組み立てに時間がかかるだけで、基本的には家具とおなじ、図面にどおり作っているのである。
家の場合、その図面が詳細で何十枚にもなるが、建て始めたら設計の変更は難しい。柱一本動かせないのである。
建築確認申請といって、図面に各所の仕様を入れたものを役所にあらかじめ提出し、法規に違反はないか、強度は十分であるか等々のお墨付きをもらわなくてはならず、許可が下りたら、その計画通り作らないといけないという決まりがある。
最終的には役所の完了検査を受け、引き渡しとなる。
昔の家作りなら、棟梁の裁量で計画の変更ができたのかもしれないが、今の建築はそうはいかない。せいぜい窓のサイズを変えるとか、引き戸をドアに変更するぐらいがいいところなのである。
施主は図面を詳細に検討し、建築模型を眺めまわし、すべて納得をしてスタートするのだが、何せおおかたの人は家を建てるのは初めてである。図面や模型での想像にも限界があるのは否めない。いまひとつイメージがわかない。また、住み始めてしばらく時間が経たないと分からないことも、多々あるだろう。
その点、ぼくの場合は多少恵まれているかもしれない。
仕事柄、いままでかなりの数の新築住宅を見てきたし、設計者や建て主さんの話を聞てきた。
長年やっていれば門前の小僧ではないが、多少の知識も身に付くというものである。図面も大抵は理解できるし、イメージも一般の人より描きやすい。
だからそんなに不安はないのだが、それでも紙の上の計画と現物は別もの。建ち上がってみて初めて、「ああこんな家だったんだな」と思うに違いない。
今月からいよいよ工事が始まる。いまは図面をながめて、あれやこれや想像しているのが楽しい。
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