夢を見ていた。
本や実験道具が雑然と置かれた、さして広くない部屋にいる。
ほこりっぽくて、すえた匂いがしている感じ。どこかの小学校の理科の資料室らしい。
窓際にしつらえた大きな棚の上に、四角い水槽が横一列にずらりと並んでいた。
ガラスの水槽には黒い土がいっぱいに入っていて、中でコオロギが飼育されている。
コオロギの飼育は、その学校で長いあいだ引き継がれている、いわば体験学習のようなものらしい。
そこで虫の面倒を見ていたのは、見知らぬ子供とその父親である。
その父のほうはなぜか僕の友達の建築家で、じつは彼とは先日、県内のある日帰り温泉で偶然会っている。
ここのコオロギは、野菜くずと空気中のホコリを食べて育つのだそうで、バッタのように巨大化したのが、湿った水槽の中でじっと動かずにいた。
しばらくして、場面が別の小学校に変わった。なのにまたしても、理科の資料室にいる。
同じ市内の別の学校らしい。
やっぱり窓際の棚の上に水槽が一列に並んでいて、中ではコオロギが飼育されている。
前の学校と何もかも同じだけど、虫の世話をしている子供の父親が違った。
友だちのお兄さんらしく、そういえば最近その人のことが話題に上がったことがあった。
夢に出てくるのは、直近の記憶にある人物というだけで、人選はかなりテキトウだなと、夢の中で思う。
ほどなく、その学校を出た。他の人達と一緒に家に帰るらしい。
途中コンビニに立ち寄って、コオロギの餌にするパンくずをもらった。コオロギがパンくずも食べるというのを、その時はじめて知った。
ここで夢から覚めた。
ただ、正気に戻るにはまだ少し時間が必要だった。
外はまだ暗いようだ。
眠っていた感覚が戻って来ると、虫の鳴き声が凄くうるさいのに気付いた。
ギー、ギー、ギー、ギー、ギー、ギー、ギー。
切れ目なくずっと続いている。耳元というより、枕の下でスピーカーが鳴っているみたいな、頭の芯まで響いてくるような音。
家の周りは畑ばかりだから、他の虫の音も少しは聞こえるが、ギー、ギー、ギーだけは特別大きい。
縁の下から?いやまさか。
一度起きてトイレに行った。暗がりで時計を見たら、まだ4時である。
もうひと眠りしようと寝床に帰るとき、枕もとの上にある小窓に目がいった。
あっ、そうだ。ブラインドは下りているが窓は開けっ放しだったのを思い出した。虫の鳴き声はそこから侵入してくるらしい。
手を伸ばして窓をぴしっと閉めた。するとその音に驚いて、窓の下で鳴いていた虫の声が止んだ。
静かな夜が戻った。
それから布団にもぐり込んで、また少し寝た。
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