ここひと月ほど前から、左手の親指の付け根が痛い。何かを握るような動きをすると、痛みが走るようになった。
どうやら腱鞘炎(けんしょうえん)らしいが、まだ今のところ医者には行っていない。
たぶん行ったところで、「左手を使わないでいれば治る」と言われるのだろう。何年か前の肘痛のときも、そう言われたのである。
ただ分かっていても、仕事があると休むわけにもいかず、何とかごまかしながら過ごしている。
11月初めにようやく仕事が一段落し、少し時間ができた。
それで、前々から気になっていた女房の実家の草刈りに行った。実家は高崎にあり、今は草刈りをする人もいなくなったので、僕が年に何回か出かけている。
その実家にある物置小屋で、女房がかつて陶芸をやっていたことがあって、今はそこで女房の友達だったチエさんが、陶芸教室をしている。
チエさんは毎回いるわけではないが、陶房にいれば、草刈りが終わった僕にお茶を入れてくれる。
チエさんに手の痛みの話をすると、これこれ、これをつけてみれば見ればといって、小さなスプレーを棚から取り出した。
透明のプラスチックボトルには薄茶色の液体が入っていて、番茶ぐらいの濃さである。
それを痛いところにシュッと噴霧すれば、痛みがやわらぐという。
チエさんも相応のお年なので、たぶんあっちが痛いこっちが痛いは年中のこと、常備しているものらしい。
「何なのこれは?」
「ビワの葉。焼酎に浸けて作るの」
大量のビワの葉をホワイトリカーに浸け、半年以上寝かしたものだという。
手首に吹き付けると、確かに梅酒みたいな甘い匂いがする。
半信半疑だったけど、付けてしばらくすると、本当に痛みがすぅーと引いた。
また痛みが出てきたら、何度か繰り返して吹き付けるらしい。
「とりあえずそれしかないけど使ってみれば」、「無くなったらいつでもあげるから」と言ってくれた。
腰痛や関節痛、火傷の痛みもこれでよくなるらしい。鎮痛と炎症を抑える効果がある、とのこと。
ビワの葉と聞くと、ちょっと懐かしかった。
実は女房が闘病中に、やはりビワの葉をすり下ろし、小麦粉と混ぜて湿布を作っていたからである。たぶん民間療法では、ビワの葉の効果は古くから知られているのだろう。
そのころはまだ工房の裏手に、大きなビワの木があった。
たぶん自然に生えたと思われるその木は、石垣の隙間に根を張っていて、季節になれば実もつけたし、木に登れば葉っぱはいくらでも手に入った。ビワの葉には困らなかった。
ただ何年か前、木が余りにも大きくなったからか、僕のいない間に伐られてしまった。大家さんが気を利かして誰かに頼んだらしい。
チエさんはビワの葉スプレーなら自分でも作れるといい、僕が忘れないようにレシピを紙に書いてくれた。
ホワイトリカー2リットルにビワの葉150グラム。
簡単である。ビワの葉の湿布は作るのが大変だったけど、焼酎浸けなら作れる。
以前はそういう民間療法をあまり信じなかったが、今回は不思議なことにやってみようという気になっている。
それにはまず、ビワの葉を大量に集めなくては始まらない。
さてどうしたものか。近くの里山にでも分け入れば、自生しているだろうか。
工房の裏のビワの木に登って、葉っぱを取ったころが思い出される。
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