暮れも押しせまってから軽井沢へ納品に行った。
群馬から軽井沢へ行くのを、軽井沢へ上がると言う人もいて、実際ここより標高は何百メートルか高い。気温も通年5℃ぐらいは低いのではないか。夏の避暑地ゆえ、冬の寒さはさぞ厳かろうと思うが、今日のお客さんは別荘地の中で定住している一家である。実は夏にも別件で納品にきているが、そこの家も定住組だった。
何日か前に降った雪が道にうっすらと残る林の中を、迷いながらなんとかたどり着いた。
黒い板壁のこぢんまりとした木造家は、軽井沢の別荘にありがちな、うっそうとした林の中ではなく、開放的な傾斜地に建っている。シンプルモダンといった印象のお家である。建物は南面して東西に長く、中は間仕切りのないワンルームに近い間取りだった。
そこにテーブルを運び入れたのだが、ストーブも焚いていない(小さな薪ストーブがあった)家の中の暖かさにちょっとびっくり。晴れていたので部屋じゅうに陽差しが降り注いでいたせいもあるが、ともかく足もとからぽかぽかとあったかい。お客さんに仕掛けを聞くと、コンクリートの基礎ごと温める暖房方式で、家全体が基礎から暖められているのである。
私はしばしの間、今住んでいる築30年の借家の寒さを思った。
断熱材が入っているのかと怪しむその家は、この春で丸3年になるのだが、ともかく足もとからしんしんと冷える。
暖房は石油ファンヒーターか電気ストーブを、各部屋に一台ずつ置いている。使う部屋に入るたびにヒーターのスイッチを入れるが、冷え切っていれば、そんなにすぐに暖まるものではない。暖気が回るまで、10分間ほどはストーブの前でじっと我慢である。
朝起きてきた時の台所の寒さと言ったら、ほとんど外と変わらない。室温が1℃の時もあった。もうすこしで流しの水が凍る寒さではないか。とりあえずあるものを着込む。
風呂に入るときなどは、ちょっと覚悟がいる寒さである。脱衣場にも電気ストーブがあるにはある。としても、気分は、寒中水泳に挑む中年気丈夫。それ突撃ィー。
万が一のこともあるから、疲れている時や体調が万全でない日は、入らない方が無難だと思っている。
考えてみれば、寒冷地に住んでいるから寒い思いをしているだろうというのは間違いである。そこは何といっても、一日でいちばん長い時間を過ごす住宅の性能がものをいう。軽井沢だってここより暖かい冬を送れるのだ。
日本の冬は、沖縄以外はどこへ行っても暖房なしでは過ごせないのに、日本人は住宅の暖房に関して鈍だった。朝鮮半島のオンドルのようなものが普及しなかったのはなぜだろう。囲炉裏端でドテラを着込み、じっと我慢していればやがて春が来るぐらいの感覚。
住まいようは、夏をもって旨とすべし云々。わが借家がその伝統を継承しているのは間違いない。というほど夏涼しくもないが。たしかに夏暑いのも嫌だが、冬寒いのはもっと嫌だ、と冬になると心底おもう。
なんだか愚痴っぽくなってしまった。家が欲しくなったのだ。
南側が開けている土地に、こぢんまりとした家。冬の陽が部屋中に差しこむ家。床暖房のある家。薪ストーブのある家。
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